リモートワークにおけるSlackを活用した「貢献の可視化」事例:日々の進捗とフィードバックで評価納得度を高め、エンゲージメントを向上させる施策
リモートワークが定着した現代において、多くの企業が直面している課題の一つに、従業員のエンゲージメント低下が挙げられます。特に、個々の従業員が日々の業務でどのような貢献をしているのかが見えにくくなり、評価に対する納得感が得られにくいといった声も少なくありません。
本記事では、サービス業で組織開発を担当されている皆様に向けて、リモートワーク環境下でSlackを効果的に活用し、従業員の「貢献の可視化」を実現することで、評価への納得度を高め、結果として組織全体のエンゲージメント向上に成功した具体的な事例をご紹介いたします。
導入:リモートワーク下の「貢献不透明化」という課題
本事例の企業A社(従業員数約300名、サービス業)は、コロナ禍を機にフルリモートワークへと移行しました。当初は業務効率の維持に注力していましたが、1年ほど経過した頃から、以下のような課題が顕在化しました。
- 業務進捗の不透明化: 個人の業務内容や進捗が他のメンバーやマネージャーから見えにくくなり、「何をしているか分からない」という相互不信感が生まれつつありました。
- 貢献実感の希薄化: チーム内での自身の役割や貢献が認識されにくく、従業員が「自分の仕事が正しく評価されているのか」という不安を抱くようになりました。
- 評価納得感の低下: 年に一度の評価面談時に、具体的なエピソードやデータに基づいたフィードバックがしにくくなり、評価結果に対する従業員の納得感が低下傾向にありました。
これらの課題は、従業員のモチベーション低下やエンゲージメントスコアの悪化に直結していました。人事部では、単なるコミュニケーション促進に留まらない、組織全体のエンゲージメントを高める施策の必要性を強く感じていました。そこで着目したのが、日々の業務で活用しているSlackのポテンシャルでした。
施策概要:Slackを活用した「貢献の可視化」アプローチ
A社が導入したのは、Slackをハブとして「日々の進捗共有」「積極的な相互フィードバック」「感謝の可視化」を統合的に促進する「貢献の可視化」施策です。この施策の目的は、従業員一人ひとりの仕事のプロセスと成果をチーム全体で見える化し、それに対する適切な評価と承認を促すことで、評価への納得度とエンゲージメントを向上させることにありました。
Slackは情報共有の速さ、手軽さ、そして多様な連携機能を持つため、リモートワーク環境下でのこのアプローチに最適であると判断されました。
具体的なアクション:Slack機能の多角的な活用
A社では、以下の具体的なアクションを通じて「貢献の可視化」施策を展開しました。
1. プロジェクト・チームごとの進捗共有チャンネルの設置と運用
各プロジェクトやチームに「#proj-〇〇_daily_sync
」のような専用チャンネルを設置し、日々の進捗共有を促しました。
- 運用ルール:
- 毎日終業時に、その日の主要な進捗、課題、翌日の予定を簡潔に投稿。
- 形式を統一するため、Slackの「ワークフロービルダー」を活用し、簡単な入力フォームを作成しました。これにより、従業員は手軽に報告でき、マネージャーも情報を一貫した形式で確認できるようになりました。
- マネージャーは投稿に対し、絵文字リアクション(例:完了を示す✅、確認を示す👀など)や短いコメントで迅速に反応し、報告が「見られている」ことを意識させました。
- ワークフロービルダーの活用例:
ワークフロー名: デイリー進捗報告 トリガー: ユーザーが #[チャンネル名] に参加した際にメニューに追加 ステップ1: フォームを送信 質問1: 本日の主要な進捗は何ですか? (テキストエリア) 質問2: 発生した課題や困りごとはありますか? (テキストエリア) 質問3: 明日の予定は何ですか? (テキストエリア) 質問4: (任意) チームへの共有事項があれば記載してください。 (テキストエリア) ステップ2: フォームの回答を #[チャンネル名] に送信 (メッセージ内容に回答を挿入)
2. ポジティブフィードバックと感謝を促す文化の醸成
従業員間の相互承認とポジティブなフィードバックを奨励するため、以下の取り組みを行いました。
- 「Good Job」チャンネルの設置:
- 「
#thanks_goodjob
」というチャンネルを設け、誰かの素晴らしい貢献やサポートに対して感謝の気持ちを投稿することを推奨しました。 - 投稿には、具体的にどのような貢献があったのか、それがどのように役立ったのかを記載するよう促しました。
- Slackの「ハドルミーティング」機能を使って、週に一度、このチャンネルに投稿された内容を振り返り、称賛する時間を設けることで、より活発な利用を促しました。
- 「
- 相互フィードバックの推奨:
- 特定のタスク完了時やプロジェクト区切りに、「
#feedback_for_growth
」のようなチャンネルで、メンバー同士が建設的なフィードバックを送り合うことを奨励しました。 - マネージャーは、ポジティブなフィードバックの模範を示し、フィードバックの質を高めるためのガイドライン(例:具体的に、行動に対して、改善点を提案する形式)を定期的に共有しました。
- 特定のタスク完了時やプロジェクト区切りに、「
3. 目標管理ツールとの連携による目標進捗の可視化
A社では目標管理にAsanaを利用していましたが、AsanaとSlackを連携させることで、目標の進捗状況をSlack上で自動的に共有する仕組みを構築しました。
- 連携内容:
- Asana上で設定された週次・月次の目標の進捗率や、完了した主要タスクが、設定された曜日にプロジェクトごとのSlackチャンネル(例:
#proj-〇〇_goals
)に自動投稿されるように設定しました。 - これにより、チームメンバー全員が、自分たちの業務が組織全体の目標にどう貢献しているのかをリアルタイムで把握できるようになり、目的意識の向上に繋がりました。
- Asana上で設定された週次・月次の目標の進捗率や、完了した主要タスクが、設定された曜日にプロジェクトごとのSlackチャンネル(例:
実施結果と効果測定
これらの施策導入後、A社では以下のような定量・定性的な変化が見られました。
定量的な変化
- エンゲージメントサーベイの向上: 導入から6ヶ月後のエンゲージメントサーベイでは、「自分の仕事が正当に評価されていると感じるか」の項目で、導入前と比較して15%ポイントの上昇が見られました。「目標達成に向けて意欲が湧くか」も10%ポイント向上しました。
- フィードバック件数の増加: Slack上の「
#thanks_goodjob
」チャンネルへの投稿数は、導入前の約3倍に増加しました。 - 離職率の抑制: 施策導入後1年間の離職率は、前年比で5%低下しました。
定性的な変化
- コミュニケーションの質向上: 進捗共有チャンネルでの情報交換が活発になり、課題発生時の早期発見・解決に繋がりました。また、フィードバックチャンネルでのやり取りが増えることで、メンバー間の相互理解が深まりました。
- 評価面談の質の向上: マネージャーがSlack上の具体的な進捗報告やフィードバック、感謝の投稿をエピソードとして活用できるようになり、従業員との評価面談がより具体的で建設的なものになりました。これにより、評価結果に対する従業員の納得感が高まりました。
- 貢献実感の醸成: 自分の日々の業務が可視化され、それに対する承認やフィードバックが得られることで、従業員は自身の貢献を強く実感できるようになり、モチベーションが向上しました。
成功要因と学び
A社の「貢献の可視化」施策が成功した主な要因と、そこから得られた学びは以下の通りです。
- 人事部とマネジメント層の強いコミットメント: 施策の目的と重要性を全社に浸透させ、マネージャーが率先してSlack上でのコミュニケーションやフィードバックに参加しました。
- 「評価のためだけではない」という文化醸成: 日々の進捗共有やフィードバックが、個人の成長支援とチーム全体の生産性向上に繋がるというメッセージを継続的に発信しました。これにより、従業員は過度なプレッシャーを感じることなく、積極的に参加できるようになりました。
- シンプルな運用ルールとツールの活用: ワークフロービルダーなどを用いて、報告やフィードバックの手間を最小限に抑えることで、従業員の負担を軽減し、継続的な利用を促しました。複雑な仕組みは継続を阻害する要因となります。
- ポジティブなフィードバックの優先: 感謝や称賛のメッセージが飛び交うチャンネルを最初に設置・活性化させることで、心理的安全性を高め、建設的なフィードバックも受け入れやすい土壌を築きました。
自社への応用・導入ポイント
A社の事例を参考に、貴社で同様の施策を導入する際に考慮すべきポイントを以下にまとめました。
- 目的の明確化: 何を解決したいのか、どのような文化を醸成したいのかを明確にし、従業員に分かりやすく伝えることが重要です。単にSlackを使うだけでなく、「なぜそれをするのか」という目的意識を共有しましょう。
- スモールスタートと段階的な拡大: 全社一斉導入ではなく、まずは特定のチームや部署で試験的に導入し、その効果や課題を検証することをお勧めします。成功事例を積み重ね、徐々に拡大していくことで、導入への抵抗感を減らすことができます。
- 従業員の巻き込みと意見収集: 施策の設計段階から従業員の意見を積極的に取り入れ、運用ルールを共に考えることで、当事者意識を高め、より実情に合った運用が可能になります。
- 運用ルールの策定と定期的な見直し: 進捗報告の頻度や粒度、フィードバックの推奨形式などを具体的に定めます。また、運用開始後も定期的に効果を測定し、ルールやツールの使い方を見直す柔軟な姿勢が求められます。
- 他ツールとの連携可能性の検討: 貴社で既に利用している目標管理システム(OKR、MBOなど)や人事評価システム、プロジェクト管理ツールなどとSlackを連携させることで、情報の二重入力の手間を省き、よりシームレスな「貢献の可視化」を実現できます。
- 効果測定の継続と改善: エンゲージメントサーベイや離職率だけでなく、Slack上での活動量(チャンネルへの投稿数、リアクション数、フィードバック件数など)も継続的に測定し、施策が意図した効果を生んでいるかを検証し、必要に応じて改善策を講じましょう。
まとめ
リモートワーク環境下で従業員のエンゲージメントを向上させるためには、単に業務連絡ツールとしてSlackを使うだけではなく、その多機能性を活用して、日々の「貢献を可視化」する仕組みを戦略的に構築することが極めて重要です。A社の事例が示すように、Slackを通じた透明性の高い進捗共有、積極的なフィードバック、そして感謝の文化醸成は、従業員の評価納得度を高め、結果として組織全体のエンゲージメント向上に貢献する強力な手段となります。
貴社の人事部や組織開発担当の皆様が、本事例から自社に合ったSlack活用施策のヒントを得て、リモートワーク下のチームエンゲージメント向上に繋がる具体的なアクションを起こされることを期待しております。