リモートワークにおけるSlackを活用した「部門横断」情報共有事例:チーム間の連携強化で組織エンゲージメントを向上させる施策
導入:リモートワーク下の部門間連携不足とエンゲージメント低下という課題
リモートワークが常態化する中で、多くの企業が直面している課題の一つに「部門間の連携不足」が挙げられます。以前はオフィスで偶発的に生まれていた部門横断の会話や情報共有が減少し、結果として部署ごとの「サイロ化」が進み、全社的な一体感や事業理解が低下するケースが散見されます。
ここでは、ITサービスを提供する中堅企業であるA社(従業員数約300名)の事例をご紹介します。A社では、コロナ禍を機にリモートワークへ本格移行しましたが、次第に部門間の壁が顕著になり、「隣の部署が何をしているか分からない」「自分の業務が会社全体にどう貢献しているのか実感しにくい」といった声が従業員から挙がるようになりました。その結果、年に一度実施される従業員エンゲージメントサーベイにおいて、「他部門との連携」「会社全体への貢献実感」といった項目でスコアが低下するという課題を抱えていました。人事部組織開発担当としては、この状況を改善し、従業員エンゲージメントの向上を図ることが急務となっていました。
施策概要:Slackを活用した部門横断の情報共有と連携強化
A社の人事部は、この課題に対し、既に社内で利用が浸透していたコミュニケーションツール「Slack」を、部門横断の情報共有ハブとして活用する施策を立案しました。単に情報を共有するだけでなく、各部門の業務内容や進捗、成果を可視化することで、相互理解を深め、偶発的なコラボレーションを促進し、最終的に全社的なエンゲージメント向上を目指すものです。
施策の柱は以下の3点でした。 1. 全社共通の情報共有チャンネルの設置と運用ルール策定 2. 目的別・テーマ別の部門横断チャンネルの推奨 3. 情報共有の自動化と効率化
これらの施策を通じて、リモートワーク環境下でも、従業員が会社の全体像を把握し、自身の業務が組織全体にどのように貢献しているかを実感できる環境を構築することを目指しました。
具体的なアクション:Slackの機能と運用の詳細
A社は以下の具体的なアクションを通じて、Slackを活用した部門横断の情報共有施策を展開しました。
1. 全社共通の情報共有チャンネル「#_all_company_news」の設置と運用
- 目的: 各部門の主要な進捗、成果、社内ニュース、経営層からのメッセージなどを一元的に共有する場として機能させ、全従業員が会社全体の動きを把握できるようにすることです。
- Slackの活用:
- 専用チャンネルの設置: 全従業員が強制参加となる
#_all_company_news
チャンネルを開設しました。 - 運用ルール: 各部門長または指名された担当者が、週に一度、部門の主要な進捗や特筆すべき成果、直近のトピックなどを簡潔にまとめたレポートを投稿するルールを定めました。
- スレッド機能の活用: 投稿された情報に対しては、スレッド機能での質疑応答や、絵文字リアクションを活用した簡易的なフィードバックを推奨し、一方的な情報発信に留まらないよう工夫しました。
- 専用チャンネルの設置: 全従業員が強制参加となる
2. 目的別・テーマ別の部門横断チャンネルの推奨と活性化
- 目的: 既存の部門別チャンネルに加え、特定のプロジェクトや共通の関心事に関する部門横断的な連携を促し、新たなコラボレーションの機会を創出することです。
- Slackの活用:
- プロジェクトチャンネルの推奨: 新しいサービス開発プロジェクトや、特定の顧客に対する提案活動など、複数部門が関わる業務においては、専用のプライベートチャンネル(例:
#新サービス開発PJ_XX
)を積極的に開設し、関係部門のメンバーが参加するよう奨励しました。これにより、部門の壁を越えた密な情報共有と意思決定が可能になりました。 - テーマ別ナレッジ共有チャンネル: 職種や専門分野ごとの「テーマ別チャンネル」(例:
#マーケティング_ベストプラクティス
、#開発_技術共有
)も推奨し、興味のある社員が自由に知見を共有し、質問し合える場としました。Slackのファイル共有機能や検索機能を活用することで、過去のナレッジも参照しやすく整備しました。 - Slack Connect(外部共有チャンネル)の活用: 必要に応じて、外部のパートナー企業や顧客との連携が必要なプロジェクトでは、共有チャンネルを積極的に活用し、シームレスなコミュニケーションを実現しました。
- プロジェクトチャンネルの推奨: 新しいサービス開発プロジェクトや、特定の顧客に対する提案活動など、複数部門が関わる業務においては、専用のプライベートチャンネル(例:
3. Slackワークフロービルダーによる情報共有の自動化と効率化
- 目的: 定期的な情報共有に関わる手間を削減し、情報提供者の負担を軽減することで、継続的な運用を支援することです。
- Slackの活用:
- 週次報告のリマインダー:
#_all_company_news
チャンネルへの週次報告が滞りなく行われるよう、ワークフロービルダーを活用し、各部門の担当者に対し、指定曜日・時刻に自動でリマインダーメッセージが送られるように設定しました。 - 新着情報通知の自動化: 特定の重要情報が投稿された際、関連する従業員グループにメンション付きで自動通知するワークフローも導入し、情報の見落としを防ぎました。
- 週次報告のリマインダー:
実施結果と効果測定:エンゲージメントの具体的な変化
これらの施策導入から約半年後、A社では以下のような定量・定性的な変化が確認されました。
定量的な結果
- 従業員エンゲージメントサーベイの改善:
- 「他部門との連携」スコアが施策導入前と比較して15%向上しました。
- 「会社全体への貢献実感」スコアも10%向上しました。
- Slackの利用状況の活性化:
#_all_company_news
チャンネルの月間投稿数が施策導入前の約2倍に増加しました。- 部門横断プロジェクトチャンネルの開設数が30%増加し、それに伴い関連するチャンネルへの参加者数も増加しました。
- テーマ別ナレッジ共有チャンネルへのファイル共有数、質問投稿数も堅調に伸びました。
定性的な変化
- 相互理解の深化: 従業員からは「他部署がどんなことに注力しているのかが明確になり、視野が広がった」「自分の業務が会社全体の目標にどう繋がっているか理解しやすくなった」といった声が多く聞かれました。
- コラボレーションの増加: 部門間の連携がスムーズになり、これまで接点の少なかった部署間で新たなプロジェクトやアイデアが生まれるケースが増加しました。
- 一体感の醸成: 全社的な情報共有が促進されたことで、会社全体としての方向性や課題への共通認識が深まり、「One Team」としての意識が高まる兆候が見られました。特に新入社員からは「リモートでも会社の全体像を掴みやすく、馴染みやすかった」という意見がありました。
成功要因と学び:施策を成功に導くポイント
A社の事例から、リモートワーク下におけるSlackを活用した部門横断の情報共有施策を成功させるための要因と学びが見えてきます。
成功要因
- 経営層からの強いコミットメントと推奨: 単なるツールの導入に終わらせず、経営層が率先して情報共有の重要性を説き、自らもチャンネルでの発信を行うことで、従業員全体の意識変革を促しました。
- 明確な運用ルールの策定と浸透: 「何を、誰が、いつ、どのように共有するか」というガイドラインを明確にし、従業員が迷いなく情報共有を行えるように整備しました。定期的な説明会や社内FAQの提供も効果的でした。
- 情報提供者の負担軽減: ワークフロービルダーの活用などにより、定型的な情報共有作業の自動化・効率化を図ったことで、情報提供者の運用負荷を最小限に抑え、継続性を確保しました。
- Slackの多機能性を目的に合わせて使い分け: 全社向けの一方的な情報共有だけでなく、プロジェクトごとのクローズドな連携、テーマ別の自由なナレッジ共有など、Slackの多様な機能を目的別に使い分けることで、それぞれのニーズに応えることができました。
苦労した点とそこからの学び
- 初期の参加率と情報提供の偏り: 施策開始当初は、一部の部門や従業員からの情報提供が滞る、あるいは逆に情報が多すぎて「ノイズ」となる懸念がありました。
- 学び: 「なぜ部門横断の情報共有が重要なのか」「それが自身の業務や会社全体の成長にどう繋がるのか」という
Why
を丁寧に説明し、従業員一人ひとりの意識改革を促すことが不可欠でした。また、情報共有の量よりも「質」を重視するようガイドラインを調整し、質の高い情報共有が評価される文化を醸成する重要性を再認識しました。
自社への応用・導入ポイント:実践的なアドバイス
A社の事例を踏まえ、同様の課題を抱える組織がSlackを活用した部門横断の情報共有施策を導入する際のポイントを以下に示します。
- 目的を明確にする: 「なぜ部門横断の情報共有が必要なのか」「何を達成したいのか」を具体的に定義し、社内で共有することが第一歩です。漠然とした目標では、施策が形骸化する恐れがあります。
- スモールスタートで始める: まずは一部の部門や特定のプロジェクトから試行的に導入し、その効果や課題を検証しながら、徐々に全社展開を検討することをお勧めします。成功体験を積み重ねることで、他の部門への波及効果も期待できます。
- 情報共有ガイドラインの策定: 共有すべき情報の種類、フォーマット、頻度、チャンネルの使い分けなど、具体的なガイドラインを策定し、従業員が迷わず情報共有できるよう支援することが重要です。これにより、情報過多による混乱を防ぎ、情報の質を保つことができます。
- 心理的安全性の確保と文化醸成: 従業員が安心して情報発信や質問ができるような心理的安全性の高い環境を整えることが不可欠です。トップからのメッセージや、良い情報共有事例の表彰などを通じて、積極的な情報共有を奨励する文化を醸成してください。
- 効果測定と継続的な改善: 従業員サーベイやSlackの利用統計データなどを定期的に分析し、施策の効果を測定することが重要です。その結果に基づき、運用方法やガイドラインを柔軟に見直し、継続的な改善を図ることで、施策の実効性を高めることができます。
まとめ
リモートワーク環境下で部門間の連携不足やエンゲージメント低下に悩む組織にとって、Slackを活用した部門横断の情報共有は非常に有効な施策です。A社の事例が示すように、単にツールを導入するだけでなく、明確な目的設定、具体的な運用ルールの策定、情報提供者の負担軽減、そして何よりも「なぜそれを行うのか」という従業員への丁寧な説明と、心理的安全性の高い文化醸成が成功の鍵となります。
「Slackエンゲージメント事例集」では、今後も様々な業界・規模の具体的なSlack活用事例をご紹介してまいります。本事例が、貴社におけるリモートワーク環境下の組織エンゲージメント向上に向けた施策検討の一助となれば幸いです。